太陽電池ストリングで情報を伝える新技術PPLC-PVを発明

平成28年11月6日
国立大学法人 東京大学

1.発表者

落合 秀也 (東京大学大学院情報理工学系研究科 講師)

2.発表のポイント

3.発表概要

 東京大学大学院情報理工学系研究科の落合 秀也 講師は、太陽光発電所の稼働率向上につながる新しい通信技術 (PPLC-PV: A Pulse Power Line Communication for Series-Connected PV Monitoring)を発明しました。太陽光発電所の運営においては、太陽電池モジュールの稼働状態監視が大きな課題となっています。今回発明した新しい通信技術を用いれば、既存のIoT技術と組み合わせることで、すべての太陽電池モジュールをコンピュータ監視下に置くことができるようになります。本発明により、パネルメーカによる通信機能付き太陽電池モジュールの製造、太陽光システム施工会社によるモジュールレベル保守サービスのIT化、稼働率向上による電力生産性の向上につながることが期待されます。

4.発表内容

 東京大学大学院情報理工学系研究科の落合 秀也 講師は、太陽光発電所の稼働率向上につながる新しい通信技術 (PPLC-PV: A Pulse Power Line Communication for Series-Connected PV Monitoring)を発明しました。この技術により開発した通信機を太陽電池モジュール(注1)に組み込むことにより、各モジュールの状態(電圧、温度など)が電力線を介して集められるようになります。これにより、目視ではわからないモジュール単位の発電異常をリモートからコンピュータにより自動監視できるようになります(図1)。

 太陽光発電システムは、太陽電池モジュール1枚が正常に発電しなくなると、全体の発電効率が1枚の欠損以上に落ちることが知られています。一方で、全体の出力に異常が観測されたとしても、目視ではモジュールの異常判別がつかないことがほとんどで、具体的にどのモジュールが原因なのかの特定は、現地でテスターを使って調査するなど、手間と労力がかかります。結果として、異常が発生してから、異常に気付き、原因を特定し、修繕を施し、発電量を回復させるまでに多くの時間を費やすことになります。

 今回発明した新しい通信技術は、一般的な20段以上の太陽電池モジュールの直列接続線に、パルス状の電流を流し込むことを可能にするものです(図2)。各太陽電池モジュールに製造時に送信機を組み込んでおくだけで、そのモジュールの状態が、集約箱あるいはパワーコンディショナー(パワコン)の周辺で読み取れるようになります。こうして読み取った情報は、IoT技術と組み合わせることで、クラウド上のコンピュータによる自動監視の対象とできます。つまり、今回の発明は、太陽電池モジュールのIT化により、モジュールの異常を早期に発見し、発電所の稼働率向上につなげることを可能にする技術となります。

 従来のPLC (注2)という名で知られる一般的な電力線通信は、今回対象としている直列接続にはそのままでは使えない他、たとえ直列向けに改良をしたとしても、定電流源(注3)として動作する太陽電池への適用は難しいものがありました。また価格面でもなかなかモジュール単位の監視にまでは至っていません。今回発明した新しい通信技術は、直列接続された太陽電池モジュールに特化した電力線通信の技術となります。また汎用の電子部品による単純な構成で送受信機能を実装することができる、という特徴も持っています。

 現在は、モジュール監視を主なアプリケーションと位置付けていますが、モジュールに対しても信号を送ることが可能なため、火災などの非常時にモジュールを電気的に切り離すことも可能です。本技術により、太陽光発電所の安全性向上への寄与も期待されます。

 本研究の詳細は、豪州シドニーで開催されるスマートグリッド通信に関する国際会議「IEEE SmartGridComm2016、注4」にて現地時間11月7日(月)に発表します。

5.用語解説

(注1) 太陽電池モジュール:フレームなどで太陽電池素子をひとまとまりにした単位のこと。仕様次第だが、発電所や家庭向けには200W〜300Wの発電容量を持つものが良く用いられる。

(注2) PLC:Power Line Communicationの略。電力線通信。商用電源の配線に高周波の電圧信号を乗せることで情報伝達を可能にしている。並列接続の回路で用いられる。

(注3) 定電流源:電圧の大きさに関わらず、一定の電流を生み出す電源のこと。定電流源に電流を押し込んでも、それ以上の電流は流れず、逆に、電流の流れを抵抗などで阻止しようとしても簡単には止めることはできない。そのため、定電流源に電流の強弱をつける信号を流そうとしても通過しない。多くの電源(商用電源、電池、ACアダプタの出力など)は定電圧源として機能するが、太陽電池は定電流源として機能する。

(注4) IEEE SmartGridComm2016:IEEE (米国電気電子学会Institute of Electrical and Electronics Engineersの略称) 主催によるスマートグリッド通信に関する国際会議。本年11月6日(日)〜 9日(水)に豪州シドニーに於いて開催。URL: http://sgc2016.ieee-smartgridcomm.org/ 

6.添付資料



図1:新しい通信技術PPLC-PVのシステム全体のアーキテクチャ
(クリックするとPDFチラシをダウンロードできます)





図2:信号解読の様子 (太陽電池モジュール20枚の直列接続での実験結果)